https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/001169529.pdf
5年に一度の年金改革法案の中で柱とされていた基礎年金(国民年金)の給付額底上げが、法案から削除されました。この基礎年金底上げ策は、将来の低年金が不安視される就職氷河期世代があと10年ほどで年金の支給開始となる65歳に達するため、厚生労働省で対策が検討されていたものです。
しかし、自民党から7月の参院選への影響が大きいと反対論が拡大し、法案から削除されるに至りました。
◆相次いで後退する低年金対策
法案に盛り込まれなかったその他の低年金対策として、基礎年金の保険料の納付期間を60歳から65歳までの5年間延長する案があります。
年金額が年10万円増える案でしたが、保険料負担が計100万円増えることへの国民の反発が強く、厚生労働省は2024年7月に断念しました。
パート労働者の厚生年金への加入拡大案は、法案に盛り込まれましたが、保険料を半分負担する事業主への配慮を求める自民党の要望により、拡大完了の時期を2029年から2035年まで先送りしました。
◆基礎年金底上げ策とは
すべての人が受け取る基礎年金は財政状況が悪いため、将来に3割目減りします。老後を基礎年金に頼る自営業者や、低所得の会社員らが困窮するリスクがありました。そこで会社員らが上乗せで受け取る厚生年金を減額して財源をつくり、国庫負担(税金)も投入して基礎年金を底上げするのが、基礎年金底上げ策でした。
厚生労働省によれば、給付額の伸びを抑制するマクロ経済スライドによる調整は、基礎年金より報酬比例部分の方が先に終了するが、厚生年金の積立金を基礎年金の積立金に繰り入れ、国庫負担も増やして基礎年金と報酬比例部分の調整終了時期を一致させれば、基礎年金の財政も改善し、将来的には99.9%の方の給付水準が上昇するとのことです。
しかし、そのためにはこれから厚生年金をもらい始める人の給付水準が何年にもわたって低下した後、やがて少しずつ上昇するという負担があります。また、国庫負担の追加は将来的に最大年2兆6,000億円に達するとされ、これは消費税のおよそ1%にあたり、将来の増税が懸念されます。
厚生労働省の考え方は「年金改革はゼロサムゲーム」というもので、恩恵を受ける人がいれば、必ず誰かの負担が増えたり給付が減ったりします。低年金対策として誰かの年金を削ることが必要なら、その妥当性を国民に丁寧に説明する必要があるでしょう。