資料シリーズNo.262「製造業におけるAI技術の活用が職場に与える影響―OECD共同研究―」|労働政策研究・研修機構(JILPT)
本研究の目的は、製造業5社の事例を通して、職場におけるAI技術の活用実態を明らかにすることである。
主な研究課題として、AI技術の機能とは何か、AI技術は従業員のタスクをどのように変化させたのか、AI技術は仕事を代替しているのか、それとも補完しているのか、そしてAI技術の開発・運用をめぐる労使間の話し合いはどのようになされたのかなどを追究した。
(2) 共通してみられた事実発見
AI技術の機能、導入時期、導入職場と活用する従業員層に違いがあるものの、各社において共通してみられた事実発見は以下の通りである。
第一に、AI技術を活用する従業員のタスクの一部は減少している。
第二に、AI技術は彼らの仕事を代替するものではなく、彼らの仕事を補完するものであった。
第三に、AI技術は一定の業務効率化をもたらしている。
第四に、開発者にはAI技術に関する新たなスキルと知識が要請されている。
第五に、その開発者の採用数は増加傾向にある。
第六に、AI技術は従業員の賃金に影響を与えていない。
第七に、AI技術の開発や運用をめぐる労使協議は実施されていない。AI技術を活用する部門内での話し合いもしくは個別従業員との話し合いはなされている。とはいえ、労使協議においては、AI技術などのデジタル技術の推進を含む中期経営計画をめぐる協議・説明はなされている。
(3) 個別事例にみられた事実発見
各事例において個別にみられた事実発見は以下の通りである。
第一に、従業員の日常の仕事内容において、業務効率化による他業務への注力化(E社、I社)、トラブル対応範囲の拡大(E社)、新たな分析業務の創出(G社)がみられた。
第二に、製造ラインにおけるAI技術の活用については、生産性の向上がみられた(E社、H社、I社)。
第三に、開発者を除く、AI技術を活用する従業員層の新たなスキルや知識として、AI技術の操作スキル(E社、G社、H社)、分析スキル(G社)、AI技術の導入をめぐる開発部門と製造部門との部門間の調整スキル(H社)がみられた。
第四に、MK部門の従業員が増加傾向にある(G社)。ここではIT情報産業からの人材の移動がみられた。
第五に、人を対象としたAI技術の活用については、データの取り扱いや倫理的懸念の検討がなされていた(F社、I社)。
(4) 主な論点
主な論点として、次の諸点を挙げた。
第一に、AI技術の普及による雇用増減への影響に関して、開発者が増加傾向にあるが、同時に、新たな業務を担う従業員層の増減についても注視する必要がある。
第二に、製造業においてもAI技術は仕事を代替するものではなく補完するものであったが、派遣従業員などの非正規従業員を含めた検討が必要である。
第三に、新たなスキルと知識の獲得のあり方として、職場を軸とした人材育成や中途採用を通じ人材の獲得が試みられており、さらに中途採用については同一産業からの移動と他産業からの移動というパターンがみられた。人材育成やその獲得方法はより詳細に観察される必要がある。
第四に、人を対象とするAI技術の活用の際には、倫理的懸念への対応がより重要であると考えられる。
第五に、労使関係が果たすべき役割は依然として重要である。現段階ではAI技術が組合員の雇用に影響を与えるものではないため、AI技術の開発、導入、運用をめぐる労使協議は実施されていない。しかし、AI技術が従業員の雇用に影響を与えうる段階になった際、その合意形成に向けた労使の果たす役割は大きい。